【要旨】
本稿は、余暇活動としてピアノ学習を希望する成人の増加を背景に、日本のピアノ教育を支えてきたと思われる自宅ピアノ指導者が、成人のピアノ学習者に対しどのような学習者像をもちつつ指導を行っているかに着目した調査報告書である。ここでは、成人のピアノ学習者と自宅ピアノ指導者を対象に、それぞれがもつ指導者像と学習者像を比較検証するために、次の6つの調査を行った。
成人のピアノ学習者を対象にした調査では、2つのインターネット調査と大人のピアノ教室でのアンケート調査結果を入手し、ピアノ指導者を対象にした調査では、自宅ピアノ指導者7名によるグループトーク調査と楽器店講師会での構造化インタビュー調査を行った。その結果、成人のピアノ学習者には、先導的立場に立つ指導者と学習者を援助する方向での指導者の2つの指導者像が存在したが、ピアノ指導者からは、明確な成人の学習者像を得ることはあまりできなかった。そこで、今後増え続けると思われる趣味のピアノ学習者が満足する指導を行うには、このような意識のずれを早急に是正する必要があるという結論に達し、指導者に対して成人の学習者に関する学びの必要性を論じるとともに、成人のピアノに関する書籍の活用と情報交換の場の設定を提案した。